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第13章 それぞれの想い 4/7

last update 最終更新日: 2025-05-31 18:00:11

 車が高速に乗る。

 窓の外は徐々に暗くなっていき、街が夜のとばりに包まれていく。その景色を眺めながら交わす二人の会話は、つきることがなかった。

「さあ降りて」

 二時間近くのドライブは、菜々美〈ななみ〉にとってあっと言う間の時間だった。

 もっと悠人〈ゆうと〉さんのことを知りたい。もっと私のことを知ってほしい……これまで悠人に対して育んできた想いが言葉となり、今まで願ってきた、悠人と二人だけの時間をかみ締めていた。

「さあ、お手を」

 そう言って差し出された悠人の手。目の前にある悠人の笑顔は、菜々美にとって間違いなく、王子様のそれだった。

 車から出ると、風が少し冷たかった。悠人がそっと、自分の上着を菜々美の肩にかける。

「悠人さん、ここって」

 降りた場所は、山の頂上付近だった。少し歩くと道が開け、景色が視界に入った。

「あ……」

 そこは市内を一望出来る、知る人ぞ知る夜景スポットだった。

「きれい……」

 見ると周りには、恋人連れと思われる若者たちが、それぞれお互いのエリアを作って座っていた。

「私、ここのこと知ってます。雑誌とかでよく載ってますから。いつか悠人さんと来たかったんです」

「やっぱ知ってたか」

「悠人さんは、ここに来たことあるんですか?」

「いや、俺も初めてだよ。でもここならきっと、菜々美ちゃんも喜ぶんじゃないかって思ってね」

「はい、すごく嬉しいです!」

 * * *

 自販機で缶コーヒーを買い、空いてるスペースに二人揃って腰を下ろす。

 見上げると月も輝いていた。そのせいで星はあまり見えないが、それでもいつも見ている空とは比較にならなかった。

「夢みたい……」

 そう言って、菜々美が嬉しそうにコーヒーを口にする。

「0時になったら、この魔法もとけてしまうけど

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